円錐角膜

Q:円錐角膜とは

A:眼球最先端の角膜は透明で厚さが5.5mm前後の柔らかい組織です。円錐角膜はこの角膜が原因不明に突出してくる疾患です。思春期頃に発症し徐々に進行します。進行の程度は様々ですが、20歳前後から進行することが多いようです。特に20〜25歳頃の進行が目立ちます。日本人の場合は30歳をすぎると進行がおさまることが多く、白人では40歳頃まで進行します。20歳前後頃まで眼鏡あるいはソフトコンタクトレンズ(SCL)で矯正できた視力が矯正できなくなり眼科を受診して円錐角膜と診断されることが多いものです。円錐角膜の初期では通 常のハードコンタクトレンズ(HCL)でも矯正できますが、進行すると円錐角膜用の特殊HCLの装用が必要です。
Q:円錐角膜の原因は?

A:原因は不明ですが、遺伝性疾患という認識は低いといわれています。男子は女子の3倍ともいわれ、男性は6500人に1人、女性では17500人に1人ともいわれています。遺伝性疾患としては家族内発症との関連が多いのですが円錐角膜での日本での報告は約1.4%と非常に低いものです。欧米では約6〜8%との報告があります。確かに遺伝は否定できませんが日本では非常に稀であります。
  円錐角膜の10%前後の方はアトピー性皮膚炎を伴っています。アトピーの方は眼をこするくせがあります。眼をこすることにより外的圧力が眼球にかかり角膜は突出しやすくなり、さらに網膜剥離を引き起こす原因ともなるので注意が必要です。
Q:円錐角膜は失明につながりますか?

A:すべてが進行するわけではなく軽度のまま留まっていることも多く、角膜混濁を伴い進行すると矯正視力が低下しますが失明することはありません。70〜80%はコンタクトレンズ(CL)で良好な生活ができますが、20〜30%の進行例の方は特殊HCLの装用や角膜移植術の適応となります。
  従来から円錐角膜は外下方の角膜が突出してくることが多いといわれていましたが、最近、日本人の体型の変化と同様に若年者の角膜が徐々に大きくなり、欧米人にみられる中央部突出型が増加しています。進行すると角膜は円錐状に突出し薄くなり、透明な角膜が白く混濁してきます。混濁により矯正視力は低下します。角膜混濁は角膜移植以外の方法では治すことができません。進行すると角膜に水が溜まり急性角膜水腫となる場合があります。ひどい場合は角膜に穴があき前房水という眼の中の水が漏れてしまいます。適切な治療を施さないと感染など視機能を損なうことがあるので注意が必要です。急性角膜水腫は適切な治療により落ち着くことが多く、落ち着くと角膜の突出は以前より平坦化することが多いものです。  
      
Q:どのような治療法がありますか?

A:薬物治療としては点眼薬によるものがありますが、進行を抑える効果はなく炎症を抑えたり、角膜を保護する効果 であり積極的なものではありません。
  いままでに角膜を熱凝固する治療がありますが、当院では実施していません。大学病院の角膜外来でも熱凝固術を実施している機関は非常に少ないのが現状です。
  また、HCL装用によりある程度の進行を抑えることができます。通常のHCLでは円錐角膜の初期に対して対応できますが、円錐角膜が中等度、高度になりますと対応できないため角膜移植術の適応となります。当院では12種類の特殊HCLを用いることにより、他院で角膜移植術が必要とであると診断された方の約90%の方がHCL装用可能となります。
Q:円錐角膜の角膜移植術について教えてください。

A:円錐角膜の進行により角膜混濁が生じると矯正視力が低下します。さらにHCL装用ができない方には角膜移植をすすめています。円錐角膜の角膜移植術後の角膜透明治癒率は約95%と他の角膜疾患にくらべ良好であるのが特徴です。
  角膜移植は突出した角膜を円形に切除しその部位に健常者の透明な角膜を移植し縫合します。手術後に裸眼視力は向上しますが、縫い合わせた角膜は不正となるため最良視力を得るためには術後炎症が落ち着いてからHCLの装用が必要です。一部の方には移植後の角膜がさらに不正となり、角膜移植術後用の特殊HCLが必要になることがあります。角膜移植を受けたからといっても全く正常の角膜に戻る訳ではないので手術を受けるには注意が必要です。まれに角膜移植術後に円錐角膜が再発することもあります。
Q:どうして円錐角膜にはハードコンタクトレンズが有効なのですか?

A:円錐角膜の角膜は不正であるため柔らかいSCLを用いると不正な角膜と同様にSCLが変形してしまうために矯正視力は不十分です。HCLは素材が固いため変形しにくいため、HCLと角膜の間に涙が入り不正な角膜の光学面 を改善するため矯正視力がよくなります。円錐角膜が進行すると突出した円錐状の部分と平坦な角膜周辺部との角膜曲率(カーブ)の差が大きくなり通 常のHCLでは異物感やHCLのずれなどで装用ができない場合が多くなります。そのため特殊HCLの装用が有効となります。
Q:円錐角膜用の特殊HCLにはどのようなものがありますか?

A:円錐角膜の特殊HCLには大きくわけて大きな直径のHCL、非球面HCL、後面多段カーブ、SCLとHCLの併用(ピギーバック法)の4つがあります。

1. 大きな直径のHCL いままでの円錐角膜用のHCLは直径を大きくし角膜に対してフラット(平坦に)に処方することが一般 的でした。円錐角膜の軽度、中度には有効ですが高度の進行例には装用が難しくなります。このレンズは光学部であるレンズ中央部と周辺部の曲率(カーブ)が同じで、直径は9.4〜10 mmの大きなHCLで直径が12 mmほどの角膜をおおうように合わせます。進行した方には異物感が強く、かなりフラットに処方するためレンズと角膜のこすれが一部に集中するため角膜の混濁が増えてくることがあります。

2. 非球面HCL  このレンズは直径が9.4〜9.8 mm と大きく、レンズ中央部光学部のカーブと周辺部のカーブが異なっています。中央部のカーブが同じでも異なった周辺部カーブによってHCLの深さ(sagital depthという)が異なります。  
  この深さの異なりによって色々な円錐角膜に対応します。中央部のカーブが同じでも、3種類の異なった周辺部のレンズがあります。
  特徴は前の項目の中央部と周辺部が同一のカーブのレンズと異なり角膜へのこすれが少ないこととレンズの動きが安定します。円錐角膜の軽度、中度には有効ですが高度の進行例では装用が難しくなります。

3. 後面多段カーブ

レインボー社製後面3段多段階カーブHCL(宇津見義一作成)
 このレンズは直径が8.8〜9.0 mmと通常のHCLの直径と同じです。HCLは中央部オプチカルゾーンのカーブが一番強く、周辺にいくにつれ段階的になだらかになっています。中央部と周辺の2つのカーブそしてベベル(レンズ端の部分)の4つのカーブからなっています。 非球面HCLで対応ができない中度、高度の円錐角膜に適応します。つまり、円錐角膜でHCLが装用できず角膜移植が必要である患者さんの約90%がこのレンズで装用が可能となります。しかし、フィッティングがとても難しく処方にはかなりの経験が必要です。中央部のカーブが一番きつく周辺部のカーブの数により2段カーブ、3段カーブ、4段カーブの3種類があります。3段カーブレンズでは周辺部の形状がさらに異なったノーマル型、フラット(ゆるめ)型、スティープ(きつめ)型の3種類があります。
  後面多段カーブHCLを開発した理由はいままでの大きい直径のHCLでは円錐角膜の中度、高度の症例に対して装用が困難な患者さんが多くいることでした。宇津見は1990年から開発に取り組みました。当時、欧米では後面 多段カーブHCLはありましたが角膜径の大きい欧米人に比べ日本人の角膜は小さく装用には適しませんでした。その後、約10年間の間に改良を重ね、5種類の後面 多段カーブHCLを開発しました。

4. SCLとHCLの併用(ピギーバック法)  HCLでは異物感が強くHCLがどうしてもできない方に適応です。SCLをのせることで異物感を取り除き、その上にHCLをのせる装用する方法です。  この方法は角膜への酸素の供給がかなり少なくなることが大きな欠点で、ケアや費用がかかることも問題です。軽度、中度までは成功しますが、高度の円錐角膜には装用ができません。処方は簡単ですが非球面 、後面多段階カーブレンズで異物感どうしても強いかたにのみ処方しています。
Q:円錐角膜の処方は難しいのですか?


A:円錐角膜は前述のように角膜が突出してくる病気ですが、その突出のしかたは様々です。英語の眼科専門書には円錐角膜先端部をnipple apex(乳頭先端) と書いてあります。つまり、円錐角膜は女性のむねのようにさまざまな形があり一つの形のCLでは適応できないため、さまざまな形のHCLが必要となります。処方には多くのトライアルレンズの中からその患者さんにあったレンズを選ぶには高い処方技術(特にフィッティングを判断する技術)が必要です。つまり、円錐角膜の処方には多くのトライアルレンズを持ち、高い処方技術が必要なのです。
  ある会社の円錐角膜用のHCLはよいとか悪いとか患者さんは批評していますが、最も難しいのがそのレンズを処方する眼科医師の処方技術なのです。残念ながら円錐角膜に対するCL処方を研究する眼科医師は日本にはあまりいません。したがって日本の大学病院にはCL専門外来が非常に少なく、HCL処方の際のフィッティングを真剣に研究する眼科医師が非常に少ないことが現状です。